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東京高等裁判所 昭和27年(う)942号 判決 1952年11月17日

控訴人 被告人 梅沢秀夫こと鄭芳[王玄]

弁護人 柳川澄 桃沢全司

検察官 沢田隆義関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人柳川澄、同桃沢全司提出の各控訴趣意書記載のとおりであるから茲に之を引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。

右弁護人柳川澄の控訴の趣意第一点について。

よつて按ずるに、本件取引の対象が所論のごとく専ら回収業者が回収した金冠、金ペン等の故物をよう解して得た地金であり貴金属管理法第十二条第三項第二号に該当する金地金の加工品を更によう解して得た金地金であることは記録上これを窺い得るところである。しかしながら貴金属管理法は貴金属を国際収支の改善その他の国民経済上最も有効な用途にあてるため、これを政府に集中するとともに、その取引及び使用を調整することを目的とすることは同法第一条の規定するところであつて、同法はその目的を達成するため新たに貴金属鉱物の製錬若しくは採取により、又は貴金属鉱さいの製錬により取得した貴金属地金、または貴金属含有物から回収した貴金属地金は、特定の場合(同法第五条第一項第一号及び第二号所定の場合)を除きすべてこれを政府に売却すべきものとし、その他の貴金属地金中特に金地金については政府に売却する目的を以てする場合等特殊な場合以外は主務大臣の許可を受けなければ取引し又はよう解し若しくは加工することをも禁止し、(同法第十二条第一項)且つ特定の金地金の加工品についてもこれを金地金とみなし(同条第三項)てその取引及び使用を制限し、もつて貴金属地金中特に金地金についてはもれなくこれを政府に集中し、その取引及び使用を規整していることは同法の立法の趣旨並びにその規定の全体からこれを窺い得るところであるから、貴金属管理法はいわゆる新産金のみならず、あらゆる金地金をその取締の対象としているものであり、本件取引の対象たる前記の金地金についてもこれを同法第十二条第一項の金地金に該当するものと解するを相当とする。されば本件被告人の所為を貴金属管理法第十二条第一項に違反するものとした原判決には所論のごとき法令の解釈適用を誤つた違法は存しないのである。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 花輪三次郎 判事 川本彦四郎 判事 山本長次)

弁護人柳川澄の控訴趣意

原判決は法令の適用に誤があり判決に影響を及ぼすことが明かである。

貴金属管理法は「貴金属を国際収支の改善その他国民経済上最も有効な用途にあてるため之を政府に集中すると共にその取引及使用を調整することを目的」として定められたものであつて(第一条)右理由よりして其の対象を原則として新産貴金属に置くことは第二条の規定及証人山部正知の証言に照し寧ろ明瞭なるところと謂うべきである。之を地金に付て見れば同条第二項に貴金属地金とは「製錬又は採取の過程を経た云々」と規定して居り右に謂う製錬とは原鉱物より一定の処理方法により製造したもの採取とは砂金の如く当初より貴金属の形に於て鉱床より採取したものと解せられるものである。而して新産金以外の金に対しては同法第十二条第三項に於て例外的に新産金と同様なる取締を為す場合を規定して居るのであるが従つて金地金でも新産金でない以上此の規定に該当する場合以外は同条の適用を受けるものでないことは明かである。

仍て本件取引の対象は各被告人の供述により明かな如く新産金ではなく回収業者が回収した金冠金ペン等の故物を鎔解して得た地金であるが斯の如きものは同条第三項各号の何れにも該当しない。僅に類例として第二号に「き損その他の事由により使用出来なくなつた金地金の加工品」というものがあるが本件の地金は右の如き加工品を更に鎔解して得た地金であり全く原形を止めぬものであつて之をも尚加工品という事は出来ない。加工品を取締る以上当然右加工品を鎔解して得た地金をも取締る趣旨であるとの論もあり得るが此の拡張解釈は右規定が前叙の如く例外規定である点並文理上よりして到底之を容認するを得ない。又同法第一条の趣旨よりして存在能量の極めて少ないと考えられる所の斯る再生地金を取締の対象とすべきか否の実際的必要性も既にして明かでなく(山部証言)仮に必要ありとすれば立法上の粗漏と謂わなければならない。行政当局が此の点に関し必ずしも明かな見解を持つて居ない模様である事も(同証言)本件解釈の一資料と謂い得るであろう右の如く原判決は貴金属管理法第十二条の解釈を誤り罪とならざる事実に対し之を適用した誤があり当然破棄せらるべきものと信ずる。

(その他の各控訴趣意は省略する。)

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